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大津地方裁判所 昭和36年(む)106号 判決

被告人 山本清司

決  定

(被告人、弁護人氏名略)

右被告人に対する大津地方裁判所長浜支部昭和三六年(わ)第二五号賍物故買被告事件につき同年六月九日裁判官福原義晴がなした保釈却下決定に対し、申立人から準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

別紙記載の条件を附して被告人の保釈を許す。

保証金を金弐万円とする。

理由

一、本件準抗告の要旨は申立書記載のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

二、一件資料によれば、被告人は昭和三六年五月三〇日「本田清と共謀の上、同年二月一日坂田郡米原町大字三吉息郷小学校々庭において北川政男から同人等が窃取した右オートバイ一台を盗品である情を知りながら代金二万五千円で買受け、もつて賍物故買をなした」との公訴事実により起訴され、それに先立ち右事実といわゆる事実の同一性を有すると思料される窃盗教唆被疑事実により勾留せられていたところ、同年六月七日申立人から保釈の請求がなされたが、同月九日裁判官福原義晴は(被告人が)刑事訴訟法第八九条第三号に該当するものとして右保釈請求を却下したこと、これより前、被告人は「本田清と共謀の上、同年四月一日午前一時頃坂田郡米原町大字三吉一、一二一番地の本田宅において西沢清から同人外一名が窃取した森沢真盛男所有の中古原動機付自転車(ホンダ・ドリーム号)一台(時価一〇万円相当)を盗品であるの情を知りながら代金三万五千円で買受け、もつて賍物故買をなした」との被疑事実により逮捕勾留せられ、右と同一の公訴事実により同年五月一三日起訴せられ(同年(わ)第二三号賍物故買被告事件)たが、同月一三日弁護人獅山知孝の保釈請求に対し、同月二〇日右福原裁判官は保証金を五万円と定めて保釈許可決定をなしたこと、更に被告人は同年六月九日「本田清と共謀の上、同年二月一九日頃坂田郡米原町大字三吉一、一二一番地の三の本田方において西沢清等から同人等が窃取した第二種原動機付自転車一台を盗品であるの情を知りながら代金三万五千円で買受け、もつて賍物の故買をなした」との公訴事実により追起訴せられ(同年(わ)第二九号賍物故買事件)たことはいずれも明らかである。

三、そこでまず、本件が所謂必要的保釈に該るか否か検討するに、一件資料によれば被告人には前科こそないが、前記各公訴事実の如き賍物故買罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認められるところ、このように約二ヶ月間という比較的短期間にいずれも賍品は単車類で買入れ先も一定し、同一共犯者によるといつた同種犯罪を反覆敢行している場合において(被告人の捜査官に対する自白、その他共犯者の自白等に徴すると、右以外にも昭和三五年一二月頃から昭和三六年四月頃までの間に数回同種犯行をなしている事実も窺知できる。)、本件犯行は被告人の常習性の発現とみるのが相当であり、且つ同罪は長期三年以上の懲役にあたる罪であるから本件は刑事訴訟法第八九条第三号に該当し、同条所定のいわゆる必要的保釈の場合に該らないものであり、これと同旨に出た原決定はその限度において相当という外ない。

四、次に進んで裁量による保釈の余地を案ずるに、

既にみたように被告人は本件に先立ち、昭和三六年(わ)第二三号賍物故買被告事件において保釈せられていたところ、右事件より前に犯した本件に関し再び勾留せられ、且つ保釈の請求を却下せられたという事情がある。そして一件資料によると、右賍物故買被告事件の取調過程において、被告人は本件についても或程度自白していたが(被告人の同年五月一二日付司法警察員並びに検察官に対する各供述調書参照)、尚公訴提起には不充分であつたところ、その段階で保釈せられたゝめ、右事件に対比して軽重のない本件につき新たに逮捕勾留のやむなきに至つた事情を窺い知ることができる。更に被告人とは若干事情が異るとはいえ、前記各事犯の共犯者である本田清は保釈中であり、他方窃盗本犯の西沢清は勾留中であることが認められる。而して常習犯については再犯の防止という政策的考慮から必要的保釈の例外としたものではあるが、既にみたように被告人の常習性は前科もなく犯行が比較的短期間に集中していること等からみてさして悪性とはいえず、本犯の西沢が勾留中であること等を参酌すると直ちに再犯の虞に結びつくとはいえない。又罪証隠滅の虞ある情況も存しない。

以上の外、諸般の情況を綜合して判断すると、本件は刑事訴訟法第九〇条にいう保釈を許すに「適当な場合」であると考えられる。よつて本件申立は右の限度において理由があり、これと異つた判断にたつ原決定は取消すのが相当であり、保釈保証金については諸般の事情を考慮して弐万円を相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 江島孝 木本繁 吉川正昭)

指定条件

一、逃亡し若しくは罪証を湮滅すると疑はれるような行動は避けなければならない。

二、召喚を受けたときは正当な理由がなく出頭しないようなことがあつてはならない。

三、被告人は坂田郡米原町大字三吉五四二の一に住居しなければならない。

四、三日以上の旅行又は転居の際には予め書面を以て裁判所に申出て許可を受けなければならない。

(準抗告申立書 略)

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